【本】古川日出男『サウンドトラック』-マニアックな音楽にも似た古川日出男節
小笠原諸島の無人島に一人漂着した六歳の少年トウタ。時を同じくして四歳の少女ヒツジコが流れ着く。
発見された二人は兄弟として育ち、やがて離ればなれに・・・。
あらすじを書くとなんてことはない物語だが、豊穣とも言えるコトバの奔流に飲み込まれてしまう作品だ。
極度にヒートアイランド化し、移民が溢れ、排斥運動が激化する東京が舞台となってからストーリーは動きだす。
著者いわく”近過去小説”ということで、時代設定は現代なれども、全く異なる歴史を紡ぎ出している。
作品がどこに向かっていくのかわからないまま下巻に続く。
アンダーグラウンドの世界に身を投じた青年トウタ、高校生となり戦闘集団のリーダとなったヒツジコ、地下住民への攻撃を繰り返す鴉使のレニ。
猛暑と暴動で沸騰する東京を舞台に、三者それぞれ物語が展開していく。
ヒツジコの、舞踏で人々の欲求を爆発させるという異才がユニークだ。
著者に特徴的なしつこいほどの細部にわたる都市と、そこに息づく人々、動物たちの現実離れした描写は、本作品にも見られる。
ストーリーはあってなきようなものなので、マニアックな音楽にも似た古川日出男節が合う合わないで、本作品の評価は変わるだろうな。
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