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【本】古川日出男『サウンドトラック』-マニアックな音楽にも似た古川日出男節



小笠原諸島の無人島に一人漂着した六歳の少年トウタ。時を同じくして四歳の少女ヒツジコが流れ着く。

発見された二人は兄弟として育ち、やがて離ればなれに・・・。


あらすじを書くとなんてことはない物語だが、豊穣とも言えるコトバの奔流に飲み込まれてしまう作品だ。


極度にヒートアイランド化し、移民が溢れ、排斥運動が激化する東京が舞台となってからストーリーは動きだす。

著者いわく”近過去小説”ということで、時代設定は現代なれども、全く異なる歴史を紡ぎ出している。


作品がどこに向かっていくのかわからないまま下巻に続く。


アンダーグラウンドの世界に身を投じた青年トウタ、高校生となり戦闘集団のリーダとなったヒツジコ、地下住民への攻撃を繰り返す鴉使のレニ。

猛暑と暴動で沸騰する東京を舞台に、三者それぞれ物語が展開していく。


ヒツジコの、舞踏で人々の欲求を爆発させるという異才がユニークだ。


著者に特徴的なしつこいほどの細部にわたる都市と、そこに息づく人々、動物たちの現実離れした描写は、本作品にも見られる。

ストーリーはあってなきようなものなので、マニアックな音楽にも似た古川日出男節が合う合わないで、本作品の評価は変わるだろうな。

【本】古川日出男『アラビアの夜の種族』-書物の、書物による、書物のため物語
【本】古川日出男『サマーバケーションEP』-読後感がとても清々しい
【本】古川日出男『gift』―乗りきれず ・・・
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【本】古川日出男『ベルカ、吠えないのか』-犬三昧
【本】古川日出男『二〇〇二年のスロウ・ボート』-文学的リミックスを読む


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【本】薬丸岳『死命』-飽きさせずに上手くラストまで引っ張っていってくれる



性的欲求が高まると殺人衝動が起こる男は、余命宣告を契機に欲望を開放する。

連続殺人を犯す男を追うは、同じく余命宣告された刑事。という、現実的かどうかは置いておいて、出だしは、グッとくる設定だ。


最初から落としどころは想像がつき、想定の範囲内に収まってしまうのだが、飽きさせずに上手くラストまで引っ張っていってくれる。

著者の作品に期待する運命が交差するようなプロットはいまひとつだろうか。

家族の再生の物語にしてしまうのは、できすぎかもしれないな。


刑事の勘という昭和なモチベーションはちといただけない。


【本】薬丸岳『刑事のまなざし』-決して癒えない心の痛みが通底する全7編
【本】薬丸岳『虚無』-もし目の前で幼いわが子が殺害されたらどう向き合うべきか

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【本】ビル・S・バリンジャー『煙で描いた肖像画』-ファム・ファタル



男が偶然目にしたとある女の10年前の写真。

その時から女は男にとって運命のひととなった。

一目惚れした女の行方をひたすら捜す男と、その女の視点から彼女の歩んできた人生が交互に語られる。


男はまるっきるストーカーだが、女の方は自身の欲望を叶えるために手段をえらばない毒婦。


名前を変え、前歴を隠して居所を転々とする女。

切れそうなつながりを懸命に手繰り寄せる男。

さてさて、二人が出逢ってどうなるか?が最大の見所だ。


運命の女=ファム・ファタルものでお約束のオチではあるものの、お話しのもっていき方が優れている。


【本】ビル・S・バリンジャー『消された時間』-好き嫌いが分かれるアレ

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【本】新井満『尋ね人の時間』-詩的な美しさを感じてしまう



ミュージシャンらしい詩的な文学作品。

生きる事に前向きではないカメラマン、彼の崩壊した家族、その周辺が描かれた二編「水母」、「訪ね人の時間」が収録されている。


主人公は、性的不能者という設定ですが、下世話なものではなく、男性の繊細さが哀しみをともないっている。


タイトル作は、別れた妻と娘との今、甦る死別した妹とのひととき、自分に好意をもってくれている女性との距離を置かねばならない関係など、淡々と語られている。


会話のやり取りにも、主人公の感情は、湿り気を帯びない。その乾いた心のうちだからこそ、余計に詩的な美しさを感じてしまうように思える。【芥川賞】


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【本】南木佳士『ダイヤモンドダスト』-”死”を強く意識してしまう



著者は信州の臨床医で、収録されている4作品とも自身の経験がベースにあるようだね。

連作短編のようでありながら、やや変化があってそこが味のように思える。


難民医療日本チームとしてタイ・カンボジアへ赴いたことがあるとのことで、そのあたりがが作品に色濃く反映されている。


看護士の主人公が認知症の父のために水車をつくるタイトル作は、移ろいゆく人生の終わりに待ち構える”死”を強く意識してしまう作品。ダイヤモンドダストのきらめきと冬へと向かう肌寒さが余韻を残す。


全収録作品に共通するのだが、ひたすら地味であるし寂しくもある。【芥川賞】


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