【本】ドストエフスキー『地下室の手記』-人の心の暗い部分のひとつの表現として



「地下室の手記」は二部構成になっており、I.地下室 は40年間引きこもり生活をつづける元役人の独白が延々と続き、Ⅱ.ぼた雪に寄せて は、その元役人の現役時代の回想がつづられている。


プライドが高く、自身の意にそぐわないものに対して、恨み言ともとれる独特の不快な考えをぶつける元役人。

一部においては、元役人の難解な思想についていくことができない。

特に、屈辱の中に官能的な喜びがあるという考えは、歯痛を例示されているものの、受け入れがたい。


二部では旧友たち、下男から蔑まれながらも、自身を貶める行為を止めることができない元役人の姿が描かれている。

娼婦へ長々と弁舌をふるい偉そうな態度をとる様は、愚物といわざるを得ない。

疎まれれば疎まれるほど、自身のプライドが傷つくにも関わらず、そしてそれを認識しているにも関わらず、元役人は他者からの侮蔑という深みにはまっていく。


苦痛に快楽を見出すということ、すなわち、自身を貶めるという行為は、それを目の当たりにする人々をも不快にさせることであるから、翻ってその周囲の様子を眺めることにこそ喜びがあると二部を読むと理解が進む。

共感ができるわけではないが、人の心の暗い部分の表現としてとらえることができる。

娼婦への想いをつのらせ再会を夢想する元役人。

それが思いもよらぬ時に実現し、激情に駆られた元役人の行動は、屈辱を相手に与える結果となってしまう。

この皮肉な結末は、物語をさらに不快なものにしているようである。


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